ダウンタウンの新スカイスクレイパーは分散型
“グラウンドゼロ”とは本来軍事用語で爆心地を意味した.
原子爆弾が投下された広島や長崎がグラウンドゼロである.
そのような意味でこのピンポイントで破壊された市街の数ブロックをそう呼ぶ事への賛否は分かれるが,合衆国民の多くがこの地が受けた攻撃とそれによって失われたものの重さをこめてこの場所をそう呼んでいる.
そのためこのワールドトレードセンター跡地がどのように利用されるかに関しても様々な意見が提示され,全ての提案を満足させる妙案が生まれる可能性は限りなく低い.
そこで資本主義のフロントランナーであるこの国では“開発権”を持つ者がその権利を行使し,世界金融の中心地であるこの地に新たなランドマークを再建する. その過程で可能な案を取り入れ,不可能な案は丁重に断念戴くという訳だ.
かつてそびえた2本の超高層ビルはそのシンボリックな対称性からNYのシルエットとして広く認知されていたが,センター自体はこの高層ツインタワー(1&2WTC)の間に中低層棟(3〜7WTC)を配置する複合施設であった.
日系アメリカ人建築家の設計によるツインタワーはチューブ構造と呼ばれ,ビル中央に集中したエレベーターシャフトと各種配管構造を束ねた主柱と,窓際に配置した多くの細い支柱によって全体を支えていた.
フロア内部から見ると窓ガラスは僅か数十センチの幅しかなく,同じく数十センチ幅の支柱と交互に配列されていたが,窓ガラスが各フロアの床から天井まで続いていたため閉塞感を感じることはなく,フロアスペースには柱が1本も配されておらずまたその細い窓から適度に見透せる外景からかえって開放感のある構造であった.
このチューブ構造が9.11の激突での火災によって一気に崩落する原因となったとする説があるが,世の中にジェット旅客機が突入する前提で高層ビルを設計する建築家はいないだろうし,広いフロア面積を確保したいビルオーナーの要望を満たす当時としては革新的な技術であったという.
新ビルの開発構想ではツインタワーを連想させない配慮か,フリーダムタワーと呼ばれる高層ビルを中心に周囲を中層(近隣と比べれば充分高層ではあるが)ビル数棟で囲みオフィススペースを分散させ,それぞれの設計を異なる建築家の手に委ねている.
従ってその全体像にはかつてのようなシンメトリーな印象はなく,ビルの集合体が円錐状のシルエットを構成する印象となり,見る人によってはかつてより雑然としたイメージを受ける可能性もあると思われる.
かつてのツインタワーを単調に過ぎると批判する意見もあったが,近くからそのアーチ状の支柱を見上げる限りでは装飾にも工夫がされている印象を受け,何よりも2本の四角柱がそびえるシンプルでインパクトのある外観はアップタウンのエンパイヤステートやクライスラービルと並びNYのランドマークとして定着してしまっていた.
旧タワーに寄せる人々の思いが多ければ多い程新タワーへの意見も集約しづらくなる.
身内を失った遺族の感情は経済性とは関係なく鎮魂の要素を増大させ,現在分散した業務を強いられているかつての入居企業は一刻も早い再建を望む. NYのランドマークとして期待する人はより洗練された外観を望み,建築物を芸術作品と捉える人はより前衛的なデザインを期待する.
かつて経験した事のない理由による再開発であるだけに,多くの人がその行方を見守っている.
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